「私はアーティストです。」
パリに来て仕事をしていて、いままでいくつかのシーンで
アーティストという呼び名についていろいろ感じたことがある。
まず初めに、自分は花屋だと思っていたし、花屋だと名乗っていた。
日本にも同じような仕事をしている人が
フラワーデザイナーやフラワーアーティストを名乗っていることがあって、
それぞれこの人はデザイナーだなぁ、
あいつはアーティストだなぁとしっくり来る人もいれば、
そうじゃない人もたくさんいた。
パリに来始めた頃、俺を見つけてくれたフランス人の恩人二人が
おれのことを人に紹介するときにリアルアーティストだと
紹介してくれるの聞いていて、なんだか気恥ずかしい気がしていた。
花についてはフランスとくらべると日本でいい仕事をするのは難しい。
花を飾ったり贈ったりする文化の根付き方にはかなりの差がある。
パリの花を見ていた俺は同じような仕事をするために
パリのフローリストは到底しないようなビジネスの工夫を
たくさんしながら自分の花を生けられる環境を作って来た。
割合でいうと9対1で9は花以外のことをしてきた。
もちろんビジネスを存続していかなければ、
美しいものを束ねるということもできなくなるので、
お金のことについて心を砕くことが生活の中心だといってもいい。
だから俺はそういうことも総称して自分は花屋だと思っていた。
先日、とある現場でうまく仕事が進められないことがあって、
そのときのほんのわずかな要因のひとつとして、気になったことがあった。
うちのスタッフは、俺のことを現場で人に紹介するときに、
私のボスです。という。
何かわからないけど違和感を感じていたのだけど、
何かわからないし、英語で紹介されることへの違和感かなくらいにしか思っていなかった。
また違う現場で、フランス語が話せる友人に手伝いに来てもらったときに、
英語の話せない会場の人と、飾る場所と飾るものについて
議論しないといけないシーンがあった。
こっちにきてからは、現場に行くとこういうことが頻繁にある。
予定していたデザインでクライアントにも、
コーディネートも承認しているのに、
会場にいくと、管理人のようない人が、そんな飾り方はできないとか、
ここには花は飾ることはできない。という。
歴史的に価値のあるものも多いので、
徐々にそういうことのパターンも経験値として
デザインに組み込めていけるようになって来たが、
確認していても、別の人がダメだと言い出すことは普通にある。
そういうときに、諦めて、別のデザインにするのか、
くらいつくのか。
日本ではあまりしなかったけど、フランスでは100パーセントくらいつくようにしている。
こっちはそういうところに綺麗な花を飾るために、
めちゃめちゃ苦労してパリ進出してきてるねんぞこら。
そういうときに、これは気のせいかもしれないが
なんだか違和感を感じたことがある。
そのフランス人の友人は、問題を解決するために、
現場監督である俺を呼んで、
このおじさんがここに花を飾るのはだめだと言ってるのと
英語で通訳してくれたのだが、そのときに、そのおじさんに
ごく自然な感じで、彼がアーティストだと紹介した。
その瞬間、俺はクライアントのこと、会場のこと、
予算のこと、全体のこと、いろいろ考えて、
ベストな方法を選択するという仕事ではなくて、
こうしたほうが綺麗なんだよ。
という意見をなんとかして通す方法だけを提案することに専念できたし、
おじさんは結局根負けして勝手にやれと文句を言いながら
許可してくれたのだが、おじさんも俺の立場を理解してくれて、
これから俺らがしようとしていることが価値のあるものだと感じてくれたのかもしれないと感じた。
些細なことなんだけど、これは俺にとってはとても大きなことだった。
だからといって、スタッフにもこれからはあーいうときは
アーティストだよと紹介してくれよ、という単純なことではない。
まず彼らがおれのことをアーティストだと思っていないといけないし、
うちの花の本当の価値に気づいていないといけないので、
これからもいままでと同じことをして行く他ないし、
結局そうしないと、価値は高まっていかない。
パリでもそういう風にいろんな人に認められるようになってきたら、
もっとやりたいことがしやすくなるし、
結局そうなるためには本当に価値のあるものを生み出していかないといけないから
これからもおれは花屋の仕事をしていくわけなんだけど、
自分のつくるものがおいついていようがいまいが
アーティスト。として名乗ってそう振舞うことは
いいものを作るために俺にとっては絶対に必要なことだと思った。
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