フリーランスでアイロニーを始めたとき
ろくに修行もせずにはじめたので
市場にいっても市場の人も花屋の人も
なんだこの素人の若いおにいちゃんはと言った感じで
店も持っていないし、経験も知識もないし
ただ自分で花屋だと名乗っているだけの生意気な小僧だった。
関西で有名な花屋さんたちが
みんな楽しそうに輪になって情報交換やら世間話をしている横を、
なんだか仲間はずれのような気分で通り過ぎていた。
そんな仕入れの日々だったけど、あるときひとりのおじいさんが声をかけてくれた。
どこでやってんの?
今思い返すと、同業者に同業者として市場で話しかけられたのは
あれが初めてだった。
それからしばらくそのおじいさんはおれの唯一の花屋の知り合いになった。
市場でそのおじいさんを見ていると、
いれかわりたちかわりいろんな人が楽しそうに話しかけてきて、
軽口を交わして、笑顔で去っていった。
あるときこんなことがあった。
仕事で使いたい枝物があって、
それはおれは使ったことがなくて、
日持ちするか不安だったんだけど、
綺麗だったので、どうしても使いたいなぁと悩んでいて
そのおじいさんを探して、聞きに行った。
この枝って日持ちします?
おー、全然大丈夫や。めちゃめちゃもつで。
と先輩はすぐに教えてくれた。
おれは安心して仕事で使って、4日後メンテナンスにいったら
くったくたに水が下がって、慌てて別のものと取り替えた。
翌週、おじいさんが、
おい、あれあかんかったやろ。笑。と話かけてきた。
まんまとはめられたわけだけど、不思議と腹は立たなかった。
なんだかよくわからないけど、花屋の世界にようやく入れた気がした。
それからもずーっとそのおじいさんとは花屋仲間だった。
うちがすこしずつ大きくなってきて、
ブランドの仕事をたくさんさせてもらえるようになって、
調子にのって東京に進出しようとした時に、
おじいさんが大病を患って手術した。
死んでもおかしくない大手術だったらしい。
でも、手術は成功で一命をとりとめた。
京都まで車を走らせて見舞いに行って、
ガリガリのおじいさんにいつものように軽口を叩いて話をきくと
手術のお金のために店も家も手放したと言っていた。
退院したあと、生活のために仕事はしないといけないと言っていたので、
おれは本気で雇いたいと思っていろいろなにか方法はないかと考えていたんだけど、
勢いのある大きな問屋さんが
顧問のような形で雇ってくれるようになったという話を聞いて
おれはなるべくこの問屋さんでたくさん花を買おうと決めた。
それからまた数年後、長年右腕のように支えてくれた盟友が
うちを辞めることになり、
その問屋さんが運営する近くの花屋を任されることになったときは、
なんだか釈然としない気持ちもちょびっと感じてたんだけど
そのおじいちゃんがパリッとした格好で、
わざわざおれのところに頭を下げにきてくれて、
おれは一発で気持ちが切り替わって、友人として、
うちではできなかったチャンスを与えてくれたことに
感謝しているのでこれまで通り宜しくお願いしますと伝えた。
もうヨボヨボであるくのもしんどそうだったけど
どこの英国紳士だよっていうようなかっこいい服を
かっこよく着こなしいて、
帰り際にいつでも女の子紹介してくれてもいいぞと言っていた。
本当にかっこいい花屋だったなぁと思う。
R.I.P
先輩お疲れさまでした。
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